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第一章 プランにこだわった失敗例

 次に紹介するのは、設計プランにだけ着目していたばかりに、肝心の予算がオーバーしてしまったケースです。

 Aさんは、理想の家をるくるに当たって、設計コンペに申し込むことにしました。設計コンペとは、施工主の希望や条件をもとに建築家たちが家の設計案を提案し、その中から気に入ったプランを選択できるという仕組みです。
Aさんは、いくつか上がってきたプランのなかから、ある有名大学教授の設計案を選択しました。有名な大学の先生が設計した家に住むことができる。Aさんの期待は膨らむばかりです。

 しかし、理想と現実は違っていました。打ち合わせの席には先生と助手が参加していましたが、実際には先生本人ではなく、助手がすべての要望を聞いてプランをつくっていました。そして先生は、途中経過も十分に把握しないまま打ち合わせの席に同席していたらしいのです。

 そんな具合ですから、打ち合わせの場では肝心の予算についての聞き取りも曖昧です。その結果出来上がったのは、Aさんの予算をまったく無視したプランでした。

見積もり額は当初の予定をはるかにオーバー

 Aさんの家の施工見積もりがスタートしたのは、役所に必要書類を提出して建築確認申請を行った後、つまり着工が決定してからのことです。
その先生から紹介を受けた建築会社や、そのほか数社から上がってきた見積もり額を見てAさんは青ざめました。
当初2000万円を予定していた予定額をはるかに超え、軒並み3000万円以上の額が提示されていたからです。なかには3500万円の見積もりもあったといいます。これでは到底予算が足りません。しかし、すでに建築許可も下りてしまっているため、ゼロからやり直すというわけにはいきません。

 どうすることもできなくなったAさんは、共通の知り合いを通じて私のところに相談に訪れました。
このケースでAさんが気の毒なのは、家づくりの過程で誰がどんな仕事をするのかをよく理解していなかったところにあります。
Aさんは、とにかく設計事務所に頼めば自分達の予算の範囲できちんとイメージ通りの家が建つと思い込んでいました。そのため安易に設計コンペに申し込んでしまったのです。

 しかし、設計事務所は最後まで家をつくってくれる訳ではありません。設計士さんが行うのは設計の仕事だけであり、実際に施工するのは別の建築会社です。

 このように設計と施工の会社が分かれている場合、設計士さんが設計したプランに対して各建築会社から見積もりを取り、実際にどこで施工するのかが決定します。そのため、設計事務所に依頼した時点では、どれくらい建築に費用がかかるのかが見えにくいという難点があるのです。Aさんはそういった基本的な仕組みすら理解していませんでした。

お金の問題は後回しにされがち

 Aさんのケースでは、どうにかして当初の予算に近づける方法を考えるしかありません。設計変更を加えつつ、職人さん達にも協力してもらいながら、どうにか2500万円で家を建てることになりました。それでも無理をして予算を組んだため、新築から2年間はエアコンが付かないという状況でした。

 これは「夢をつくる」という作業にばかり目が向けられてしまい、大前提となるお金の問題が後回しにされたことから起こっています。

 その結果として、後から「夢を削る」という大変な作業を強いられてしまったのです。このような家づくりでは、予算をオーバーしてしまうというトラブルは決して珍しくはありません。むしろよくあるケースと言えるのではないでしょうか。